2017/06/06回転寿司の名人(続)

※前回のブログ「回転寿司の名人」続きです。芸術家である北大路魯山人先生をリスペクトし、特有の言い回しを多数使用しています。これらの言い回しが気に入った人はぜひ著書を読んで、真の芸術家になりましょう。

 わたしは京都に生まれた関係で、B級グルメ、隠れ家カフェはおのずから知ってはいるが、回転寿司の品目の多さには、かぶとを脱がざるを得ない。
 炙りうなぎなどの「炙りシリーズ」は、100円単位での寿司で、できるだけ口当たりの良さを最大限に引き出した、いわば「究極の100円寿司」である。
 
 値段が安ければ、材料が安くなるのは当然だ。家族の外食を想定すれば、寿司といえども、そのへんのファミレスと同じ価格帯におさめなければならない。安い材料で、いかにお客を満足させるかが問われているのである。
 その理由をわきまえず、魚介の質を問うのは野暮であるが、どうしても言いたくなってしまうから仕方が無い。
さしずめ京都市北区を例に、私の趣味、経済事情に合格するのは二、三軒であろう。その一軒に、寿しのむさし上堀川店がある。昔は堀川紫明にもあった。小学校のころ通っていた水泳教室の帰りによく連れていってもらっていたが、平成23年には閉店した。
 
 いつも仏頂面の上堀川店の主人は、とにかく握るのがうまい。一貫146円の価格帯の回転寿司にしてはネタの鮮度がよく、美味しい。最近は346円で近大マグロも入荷しているらしい。
 ファミリー層、特に子ども達が多くて落ち着かない。店が狭いわりにホールのスタッフの数が多い。水をくんでくれたり、注文の皿を持ってきてくれるのだが、スタッフが供給過多すぎて立っているだけに見える。お手洗いのために席を立って、スタッフの前をいちいち遠慮しながら通り過ぎるのが億劫である。しかし、かわいい女性スタッフが多いのでこの点は不問とする。
 主人が、弟子と思しき板前のダメ出しを、テーブルからも聞こえるぐらいの声で言っているのが聞こえるせいで、いささか雰囲気もよろしくない。これが原因なのか、これほどのおいしさを誇る寿司屋ながら、土日の晩に行っても予約なしで入ることができる。むしろありがたい。ただ口福の歓びを感ずるのみである。

 次が全国各地にすばらしい店舗をもつくら寿司である。
 くら寿司は、名の通り店舗の外観が「蔵」であり、初見の人が見ても「なんか和風のレストラン」と判断できる。内装、雰囲気は完全にファミレスであり、とにかく入りやすい。スイーツ、ジュース、おつまみ、どんぶり、麺類、カレーなどサイドメニューが豊富。店内が広くテーブル席も多いので、友人や家族と入るのに最適である。混み合い防止のため、予約システムも完備。
 まさに無敵である。あまりの戦闘力の高さに、くら寿司が一軒たてば、そのへんの寿司屋は100軒は干上がってしまうだろう。しかし、くら寿司に劣る点なしとはいい難い。
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 材料ーー主として魚介の目利きの点において、むさしが優れているように思う。米を炊かしても、だんぜんむさしが優れている。むさしのネタの鮮度にわたしは感心している。くら寿司の注文まぐろは、舌が凍りつくほどキンキンに冷えてしまっている。美味しく食べるには、しばらく放置する必要がある。キンキンに冷えているのはビールだけでよい。寿しのむさしの炙りうなぎにかかっては、くら寿司のうなぎは無条件降伏せねばなるまい。くら寿司のうなぎは基本ぱさぱさであり、身も薄い切り口である。しかも、最初からあまだれが付いていない。むさしは、目の前で主人がうなぎをバーナーで炙ってくれるから臨場感があるし、あまだれが最初から付いている。一手間を惜しまない。
 
 もしくら寿司がうなぎの選択をさらに厳にし、あまだれを最初からつけていればそれこそ天下無敵であろう。
 先日、家族でくら寿司今出川店に行った。そのとき頼んだフライドポテトが、揚がりきっておらず、べちゃべちゃだったので、店員に取り替えてほしいと言った。店員は、べちゃべちゃのフライドポテトがかなり減っていたにもかかわらず、すぐにあげたてに替えてくれたのだ。
 
 むさしのサイドメニューには、大学いもとかつおのあらたき、茶碗蒸しかない。スイーツなどは、もはや語るまでもなかろう。私が大学受験勉強をしていたころ、くら寿司に昼飯を食べに行った。寿司を一貫も食べず、200円で腹一杯にすることができた。100円うどんは美味しく、スープも飲めばかなり腹がふくれるからだ。サイドメニューに関しては、くら寿司の独壇場である。回転寿司のサイドメニューは生命線であり、これをおろそかにしては話にならない。むさしがくら寿司に勝つためには、店を広くし、サイドメニューのための設備投資をするべきである。サイドメニューの魅力すなわち回転寿司の魅力である。

 かくのごとき回転寿司ができたのは、2000年代である。このときから、寿司屋は「カウンター」から「テーブル」に変わった。寿司をひとりで楽しむのではなく、安価に語らぐことのできる場所、ぬくもりを、人は欲しているのである。
 テーブルに親しい友人が集まればおつまみが、子どもならカレーにラーメン、女性ならスイーツが欲しくなる。これなら色々食えて、料理として満点である。しかし、これは回転寿司というより「寿司レストラン」と読んだ方がふさわしいように思う。従来とはまったく違った新日本料理が生まれたのだ。